Vol.149 メンタルヘルス

従う心について

 指示に従う優秀な従業員ほど配慮が必要です。“従う”という心の状態には丁寧に接してあげましょう。

 交流分析という心理学では、“従う”心の状態を、AC(Adapted Childの略/順応した子ども)と表現します。ACは、相手の顔色をうかがったり、心情を察して従おうとする心の状態です。心の発達から考えると、子どもが親に守ってもらおうと、親の言うことを良く聞く時の状態に由来します。
 上司や先輩を目の前にすると、人はACに入りやすくなります。もちろん、中には相手に配慮しないという人もいるかもしれません。しかし、業務指示を受けるときなどは、多くの従業員がACという“従う”心の状態を使っています。

 ACが適度に働いているのであれば、“相手に配慮ができ、指示を良く聞く従業員”という行動ができます。しかし、ACが過剰に働くと、相手の顔色や心情を察しようとするあまり、過度な自己卑下をしたり、自分の意見を抑え込むことがあります。さらに過剰に働き過ぎると、反抗心が芽生えることがあります。
 例えば、仕事を抱えて手いっぱいの状態で上司から別の仕事を頼まれた時、「すみません、今手いっぱいなので取り組めそうにありません。別の人にお願いできませんか?」「その仕事に取り組みたいので、同僚を一人付けてくれませんか?」など言えたのなら、それは現実に即したやり取りです。しかし、ACが過剰に働いていると、このような現実検討がうまくできず、自分を抑え込み、とりあえず指示に従ってしまうのです。従ったとしても、やはり手いっぱいなので仕事は捗らずに苦しくなってしまう・・・。こうしたとき、「あなたの指示に従ったからこんなに苦しくなってしまった!」と、“従う”という心の状態にあるからこその反抗心が出てくることがあるのです。
 指示によく従う優秀な従業員は、ひょっとしたらACが過剰に働いているため、自分を抑え込んでいるのかもしれません。こうした従業員の心的負担を考えずに仕事をどんどん振ってしまったら、いつかはハラスメントだと声をあげられることもあるかもしれません。

 ACの過剰な働きを防ぐためには、自分の気持ちや意見を安心して口に出せる職場環境、つまり、心理的安全性が保たれた職場環境を作り出すことが大切です。もし、職場で馬鹿にしたり、無能扱いするような発言が飛び交っていたら、不安な気持ちから萎縮し、自分を抑え込み、ACが過剰に働くことにもなりかねません。お互いに気持ちよく仕事をするためにも、普段から相手を尊重したコミュニケーションを大切にして、心理的安全性を整えるよう心掛けてください。

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