職場における労働者の安全衛生を考える
令和5年3月に第14次労働災害防止計画が公示されました。その中の「安全衛生を取り巻く現状」として、「労働人口の約3人に1人が、何らかの病気を抱えながら働いている」「一般定期健康診断の有所見率は50%を超え、疾病リスクを抱える労働者は増加傾向」との分析結果が出ています。特に高年齢労働者(65~74歳)における労災発生率は30歳前後の最小値と比べると、男性で約2倍、女性で約3倍となっています。高齢にもかかわらず、職場において危険な作業や負担の多い業務をせざるを得ない状況は、今後ますます少子高齢化が進む中、さらに続くことが予想されます。
また、令和3年労働安全衛生調査(実態調査)によれば、「労働者の心身の健康状態」においては、「現在の仕事や職業生活に強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は53.3%」との結果が出ています。労働災害防止計画にもある通り、精神障害等の労災認定件数は令和3年度に過去最高(629件うち自殺79件)を記録しました。このことからも、いかに労働者が過酷な状況に置かれているかがうかがえます。
メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、10~29人の小規模事業所ほど低調(全事業所での割合が59.2%に対し49.6%)です。メンタルヘルス対策に取り組んでいない理由として、「取り組み方が分からない」「専門スタッフがいない」などノウハウの不足や専門人材の不足が挙げられています。
平成27年より、労働者が50人以上いる事業所に義務化された「ストレスチェック制度」については一定の効果が確認されている一方で、集団分析結果を有効に活用した職場環境改善の実施がされていない事業場もあるとの課題が報告されています。(令和3年度厚生労働省委託事業「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業報告書」)
コロナ禍で急速に広まったテレワークの導入の影響により、「職場内での日常的な会話が少なくなった」、「他部門のメンバーと接触する機会が減った」、との声をよく聞くようになりました。その結果、疎外感や孤独を感じやすくなり、メンタルヘルスの問題を抱える従業員も多くなっているようです。
もともと「ストレスチェック制度」は、ストレスの状態を把握することでメンタルヘルス不調を未然に防止する、いわゆる「一次予防」を目的としています。当初より、高ストレス者を面接指導につなげる個人へのアプローチと同時に、組織分析に基づいた職場環境改善という集団へのアプローチが重要とされてきました。ぜひとも、これまで蓄積されたデータを活用して、それぞれの職場で、今、何がストレスとなっているのか、従業員はどのような問題を抱えながら仕事をしているのかを明確にし、働きやすい職場を作っていただきたいと思います。