Vol.98 ハラスメント

マミートラックの問題点

 2022年7月、女性活躍推進法改正により、労働者301人以上の企業に対して、男女賃金格差の公表が義務付けられました。2022年の世界ジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラム発表)が146ヶ国中116位だった日本においても、男女賃金格差は減少傾向にあると言われています。しかし、家事・育児を女性の仕事とするジェンダーバイアスは、男性にも、また、女性自身の中にも根強く残り、仕事との両立を難しくしていると言えます。

 「マミートラック」という言葉をご存じですか。キャリアを陸上競技のトラックに見立て、元々は、子育てをしながら働く女性に必要な働き方、キャリアコースを用意するものとして、ポジティブな意味で使用されていたようです。しかし、価値観の変化と働く女性の増加により、最近では、女性が妊娠して昇進や昇給のコースから外されることを「マミートラックにはまってしまう」というように、ネガティブな意味で使われています。

 就業意欲が高い女性にとって、希望しないマミートラックを走らされることは、キャリア形成の機会損失につながり、モチベーションも低下するでしょう。また、女性自身が「家事・育児は女性である自分がやるのが当り前」と無意識に思い込んでいる可能性もあります。

 マミートラックに乗ってしまい重要な仕事を任されず、高い評価を得られない。家事・育児との両立も大変。そもそも自分には仕事の能力がないのではないかと判断し、それ以上の成長や昇進・昇格をあきらめてしまうかもしれません。そうなっては、本人やその家族だけでなく、企業や社会にとっても損失です。

 マミートラックを用意した会社側は、「子どもがいては働けないだろう」「負担の大きい仕事からは外してあげよう」など、良かれと思って気を回したつもりかもしれません。しかし、それにより女性の成長や昇進・昇格の機会が奪われたり、辞めてしまう女性が多くなったりすれば、「子育て中の女性には重要な仕事を任せられない」といった印象が広がってしまい、女性活躍推進にとって悪循環を生みかねません。

 こうした悪循環から抜け出すには、男性も家事・育児を担う主体であるということを皆が認識し、男女ともに多様な働き方を可能にする企業文化を作っていく必要があります。男女賃金格差の公表を意味のあるものとするためには、格差の背景を探り、制度を充実させることが求められています。そのためには、子育てをしながら働く女性のキャリアコースを思い込みで決めつけず、注意深く従業員の話を聞いていくことが、重要な手段の一つとなるのではないでしょうか。

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