保育施設での不適切な保育の現状と政府の対応
近頃、保育施設での不適切な保育が全国で明らかになっています。2022年12月27日から2023年2月3日にかけて、こども家庭庁が全国の自治体と保育施設を対象に行った実態調査によると、2022年4月~12月、保育所だけでも914件の不適切保育が確認され、そのうち90件は虐待であったと認められました。子どもたちの安全を守るための対応を求める機運が高まっています。
「不適切な保育」の事例
この調査が行われたきっかけの一つに、2022年11月、静岡県裾野市の私立認可保育園「さくら保育園」の保育士3人が園児への暴行容疑で逮捕された事件があります。園児の足を掴んで宙吊りにするなど、数々の身体的・心理的虐待行為が行われていたという報道は、世間に大きな衝撃を与えました。
各所での認識の違い
今回の調査の規模や、実施までの迅速さからは、国の不適切保育抑止への前向きな姿勢がうかがえます。しかし、「不適切な保育」の基準があいまいであったために、保育所や自治体によって回答にバラつきがあり、実態を表しているとは言い難い結果となりました。
実際に、岐阜市は回答した全73件の不適切な保育の事例を取り下げることを表明し、理由として「明確な定義が示されていなかったこと」「不適切な保育とは言い切れないものまでカウントしていたこと」を挙げています。また、73件のうち56件は一つの保育園からの回答であったことからも、保育施設や自治体によって「不適切な保育」についての認識が一致していないことが分かります。
「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」
そこで、調査の結果と反省点を踏まえ、国は「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」を策定しました。
これまでにも不適切な保育に関する手引きは存在していましたが、今回のガイドラインでは
①「不適切な保育」の考え方を明確化
②不適切な保育や虐待等の防止や、起きてしまった場合の対応に関して、保育所等や自治体に求められる事項等
について、改めて整理して示されました。
加えて、国は児童福祉法を改正し、保育所等の職員が虐待等を発見した場合の通報の義務化も検討、ならびに虐待等の未然防止に向けた保育現場の負担軽減と巡回支援を強化 していくことを明らかにしました。
今回のガイドラインの策定と、今後検討される児童福祉法の改正により、子ども達が安心して通える、保護者が子を安心して預けられる環境が整備されることが期待されます。
関連リンク
こども家庭庁・文部科学省(2023年5月12日)“「保育所等における虐待等の不適切な保育への対応等に関する実態調査」の調査結果について” pp.2~3, 44~45 (2023年5月17日参照)
こども家庭庁(2023年5月12日)“保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン” (2023年5月17日参照)
こども家庭庁・文部科学省(2023年5月12日)“昨年来の保育所等における不適切事案を踏まえた今後の対策について”(2023年5月17日参照)
NHK(2022年11月30日)“静岡 裾野の保育園 保育士3人 1歳児ら倉庫に閉じ込め 宙吊りも”(2023年5月17日参照)
NHK(2023年5月16日)“「不適切保育」岐阜市が実際は「該当せず」で国に訂正を求める”(2023年5月17日参照)