「心理的安全性」とは
企業の上司の立場にある方から、「部下に厳しく言えばハラスメントと言われる。会社のためにしたことなのに、理不尽だ」といった嘆きを聞くことがあります。その上司は、もしかすると常に自分は正しく、部下が自分の指示を黙って遂行していれば、生産性をあげられると信じているのかもしれません。そう考えている上司の立場の方がいましたら、今一度、部下への支援の在り方を見直してみてはいかがでしょうか。
デジタル化などにより、事業環境においても変化が大きく、先行きの不透明さが増している今、職場の「心理的安全性」がもたらす効果に注目が集まっています。
「心理的安全性」とは、組織行動学のエドモンドソンが提唱した用語です。率直に意見を言ったりアイディアを提供したりしても、責められたり、バツの悪い思いをするのではと不安になる必要のない、安全だと感じられる職場環境を指します(※)。
不確実性の高い状況では、トライ&エラーの結果から学ぶことがより重要です。その結果を事業に活かすためには、まず従業員が失敗の報告を恐れない環境が必要です。部下の立場から職場で安心して発言するのは、たとえ優秀な人であっても難しいものです。特に「常に自分が正しい」と信じている上司に対してはなおさらでしょう。
リーダーは自分が全ての答えを持つ存在でないことを自覚し、部下であっても相手を尊重することが大切です。そのようなリーダーの言動は、職場に「聴く文化」を作ります。取り返しのつかないミスを防ぎ、新しいアイディアを生み出すことも可能にするでしょう。
さらには、発言しても安全だと感じられる職場のほうが、従業員にとって働きやすく、力を発揮しやすいのではないでしょうか。
自分の指示に黙って従うことを求め、失敗を許さない強いリーダー像を理想とする企業文化の中で働いてきた方も多いことでしょう。しかし、望ましいリーダー像は時代と共に変化しています。従業員一人一人が持つ視点や発想を活かし、本来の力を発揮できる職場環境を整えるために、「心理的安全性」の考え方を取り入れた組織づくりが有効かもしれません。
※恐れのない組織―「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
エイミー・C・エドモンドソン著(2021)英治出版