キャリア支援とメンタルヘルス
DX(デジタルトランスフォーメーション)という用語をテレビや雑誌で目にするようになりました。デジタル化によって、業務を効率化し、新たな価値を生み出す取り組みを指します。少し前には新奇に聞こえた言葉ですが、最近は聞き慣れた方も増えてきたのではないでしょうか。
デジタル化によって、従業員に求められるスキルも大きく変わってくると言われています。例えば、警備会社でロボットやセンサーによる警備のデジタル化が進むと、そこで働く従業員は、警備員としての能力だけでなく、ITの知識も必要になるといったことがあり得ます。従業員に新たな知識を身に着けさせる企業の取り組みを「リスキリング(reskilling)」と呼ぶようです。経済産業省の「デジタル時代の人材政策に関する検討会」では、リスキリングを「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に対応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。
一従業員としては、新しい知識を会社に学ばせてもらえる素晴らしい機会とも言えますが、一方で、自分がこれまで積み上げてきたものの価値がなくなるように感じられ、今後のキャリア形成や雇用への不安が募ります。また、自分が望むキャリアの方向性と会社が求める役割との間にギャップが生じると、大きなストレスとなり、メンタル不調を引き起こす原因にもなります。
ダイヤル・サービスの相談窓口にも、「この仕事には将来性がない」「自分はこの仕事に向いてない」といった相談が数多く入ります。従業員のキャリアを支えることは、メンタルヘルスの維持に不可欠なものであることがうかがえます。
メンタルヘルス不調の予防には、1次予防(未然予防)、2次予防(早期発見・早期治療)、3次予防(再発予防)がありますが、キャリア支援は、特に1次予防と3次予防に関わります。従業員の適性に配慮すると同時に、本人の自己実現に向けた努力を支えることが必要です。今後は、従業員がデジタル環境の変化にうまく適応することを目指したキャリア支援の重要性が増すことが予想されます。
企業が新しい時代へ向けて事業変革を打ち出す時には、一方で従業員のメンタルヘルスとそのためのキャリア支援にも目を向けていただけたらと思います。