新そば始めました
「そば湯まで飲めと言いますが、そばだけでも栄養はありますか」「緊急事態宣言も明けて、この秋はお店で新そばと日本酒が楽しめそうです。夏の新そばもあると聞きましたが、秋そばと違いはありますか」「そばは消化が悪いと聞きました。本当でしょうか」などのご相談が管理栄養士の窓口には寄せられます。
「新そば始めました」とそば屋の店先で見かける季節になりました。そばは日本各地で栽培され、さまざまな食べ方や歴史がありますが、今回は江戸のそば事情をひもといてみましょう。
◆そばの旬は?
そばは夏と秋に旬を迎えます。昔から冷涼地で夏そばは栽培されていましたが、秋そばより質が落ちると言われていました。現在では品種改良されて、あっさりした味わいの夏そばが好まれたりしています。ただ、一般的に「新そば」と呼ばれるのは、香り、味ともに勝っている秋に出回るものです。江戸っ子たちは首を長くして秋そばを待っていたそうです。
◆江戸っ子はそば派?うどん派?
「江戸っ子の初物好き」と言われ、江戸の町では新そばも初物としてもてはやされました。当時、初物を食べると75日寿命が延びるといわれていたそうです。実際、そばにはビタミンB1が多く含まれ、「江戸患い」と呼ばれた脚気の予防に一役買っていたのかもしれません。
「東のそば、西のうどん」と表現されるように、そばは東の文化のような印象があります。ところが、江戸初期ごろは、アワやヒエなどの雑穀と同様に扱われ、人気がなく、江戸の町でも主にうどんが食されていました。
◆江戸前のそばとは?
当時のそばは、そば粉100%で作られていたため切れやすく、調理方法もゆでるのではなく蒸していました。今のようにすすって食べられるようなものではなかったようです。
その後、小麦粉をつなぎとした二八そばが作られるようになり、ゆでてから水にさらすようになりました。それにより、江戸後期ごろには貴人と呼ばれる人たちまでもが食すようになります。雑穀として扱われたそばを初ガツオに次ぐ初物へ押し上げたのは、そばの保存、製粉、製麺技術の向上と調理方法の変化によるものです。
「東のそば」と呼ばれるきっかけとなった食文化の変化がもう一つあります。それは、濃口しょう油の醸造技術の向上です。江戸初期のころに京から運ばれた薄口しょう油は高級品として扱われ、庶民の口にはなかなか入らないものでした。そのため、そばのつけ汁は「煮貫(にぬき)」または「垂れ味噌」と呼ばれる調味料で作る味噌ベースの味でした。
その後、関東地方で薄口しょう油に引けをとらない濃口しょう油が作られるようになり、江戸前のしょう油、砂糖、みりん、かつお節のだしを使用したつけ汁が一般的になりました。濃口しょう油の普及がそばと相性のよい甘辛いつけ汁を生み、江戸前そばの伝統を今に残したのです。
◆そばは消化が悪い?
そばは、ヘルシーなイメージで体調の悪いときでも食べられそうな気がしますね。しかし、ごはんやうどんに比べ食物繊維が多めです。そのため、やや消化に時間がかかります。また、そば粉のひき方や十割そばか、二八そばか、などの違い、さらに天ぷらや卵、山菜など具材の種類でも消化の時間が違ってきます。胃腸の調子が悪いときは軟らかく煮たうどんにし、そばは、できるだけ控えた方がよいでしょう。
◆そばの栄養は? そば湯は飲むべき?
そばには白米やうどんに少ないビタミンB1、B2や鉄分が含まれています。たんぱく質も良質で、コレステロール上昇の抑制作用があります。ほかの穀物では不足するトリプトファン、スレオニン、リジンなどの必須アミノ酸を含んでいるのも特色です。そばに期待する健康効果はルチンが代表的でしょうか。ルチンはフラボノイドの一種で、その働きとしては、毛細血管を丈夫にし、動脈硬化の予防のほか、血圧の降下作用に役立つといわれています。このルチンは水溶性といわれていましたが、現在は難水溶性で、真水にはほとんど溶けず、熱湯に多少溶け出る程度といわれています。そば湯やそば茶に含まれてはいますが、そば自体に含まれる量には及びません。
ただ、ビタミンB群、ナイアシン、カリウムなど水溶性の栄養成分は全部ではありませんがゆで汁に溶け出すため、そば湯を飲む効果はあります。苦手であれば、そば湯を飲まなくても栄養はしっかり期待できます。お好みでそば湯を飲むときは、つゆの塩分の摂りすぎには注意しましょう。