ビッグモーター不祥事の概要と内部通報の重要性
2023年8月30日問題の概要
中古車販売大手のビッグモーターの不祥事が話題になっています。車を故意に傷付ける、本来必要ではない部品交換を行うなどの数々の不適切行為が報道され、世間に大きな衝撃を与えました。
第三者委員会がまとめた報告書によると、サンプル検査で検証した2,717件のうち、不正が疑われる行為が4割以上で、全国34の修理工場で確認されました。また、ビッグモーターが2022年11月から実施した調査によると、修理した車両一台あたりの水増し金額は約3万9,000円でした。
ビッグモーターだけでなく、中古車販売業界全体、ひいては保険業界の信頼にまで影を落とす今回の不祥事ですが、この問題の要因には何があるのでしょうか。
問題の時系列
実はこの水増し請求の問題は、2021年秋には顕在化していました。損害保険の業界団体である日本損害保険協会に、「上長の指示で過剰な自動車の修理をし、その費用を保険会社に請求している」という内部告発があったためです。これをきっかけに、ビッグモーターと取引のある損保3社、「損害保険ジャパン」「三井住友海上保険」「東京海上日動」が調査を始め、全国33ある整備工場のうちの25工場で、水増し請求が疑われる案件を確認しました。その後3社は2022年6月、ビッグモーターにも自主的な調査を要請しましたが、ビッグモーター側はこれを、現場レベルでの経験や技術力の不足を原因とするものとして報告し、事態の早期収拾を図ろうとしました。損保ジャパンはこれを受け入れて取引を再開しましたが、東京海上日動が追加で行った自主調査により不正請求が判明したほか、マスコミの圧力が日増しに強まっていったことで2023年1月末に特別調査委員会が設置されました。
その後、同年2月から3月にかけては車検の不正が発覚した九州の店舗が行政処分を受け、4月にはタイヤをわざとパンクさせる方法を従業員がレクチャーする動画が流出、7月5日には特別調査委員会が不正請求があったとする調査報告書をビッグモーター側に提出し、7月7日からメディアで大きく報じられるようになりました。
問題① いびつな企業風土
今回の問題の要因の一つ目に、ビッグモーターの行き過ぎた利益至上主義と、それに伴うゆがんだ企業風土があります。
第三者委員会の報告によると、鈑金・塗装部門においては、車両修理案件1件当たりの工賃と部品粗利益の合計額をアット(@)と呼び、この平均の目標値を14万円前後に設定していました。しかし、軽損では工賃は通常3万円程度であるため、このノルマを達成することは困難でした。そこで、ニュースで知られているような「ゴルフボールを入れた靴下で車体を叩く」「工具で傷をつける」「必要のない部品交換を行う」などの不正を行い、請求金額を水増ししていたのです。また2016年には、月間目標額が目標を下回った店舗の店長が、上回った店舗の店長に自腹で10万円を払う慣行があることが報じられました。このように、ノルマを達成できない社員に対しては降格や罰金などのペナルティが課された一方で、成果を上げた社員に対しては高額の給与が支払われていました。
また、売り上げ以外にも「環境整備点検」と称された本社による店舗の調査では、20以上にのぼる確認項目をクリアしなければならず、従業員を苦しめていました。この点検で減点されると厳しく指導を受けることになるため、従業員たちは時には深夜まで必要以上に掃除や整理整頓に追われ、結果として店舗前に除草剤を散布し、植え込みや街路樹を枯らすという行動に繋がりました。
問題② 損害保険会社との癒着
この問題の要因の二つ目には、ビッグモーター社と損害保険会社との関係性があります。
ビッグモーターは、中古車の修理や販売だけでなく保険代理店業務も行っているため、保険の販売や、自賠責保険を取引先の損害保険会社に紹介する業務も担っていました。そこで、損害保険会社側は、車が事故に遭った自社の契約者に修理工場としてビッグモーターを紹介し、その件数に応じてビッグモーターが自賠責保険の契約を保険会社に割り振るという関係が出来上がったのです。日本損害保険協会HPによると、自賠責保険は「被害者の救済を目的とした社会保障的な性格を有する保険であるため、保険料に利潤は含まれておらず、保険会社の利益は発生しない」とされています。しかし、本当に利潤を生まないのであれば保険会社が自賠責保険の契約を取るインセンティブがありません。そのため実際には、保険料収入の中には保険金の支払いに使用される保険料である「純保険料」のほかに、保険会社の経費等を補完するための「付加保険料」と呼ばれる料金が含まれており、こちらは損害保険会社の収益に貢献します。それを割り振る立場にあったビッグモーターに、損保各社は忖度し、不正を助長していたのではないかと非難されています。
上記3社の中でも最も強い疑いの目を向けられているのが、損保ジャパンです。2022年6月に行われたビッグモーターの社内調査に関しては、損保ジャパンと三井住友海上の出向者も加わっていました。その調査内では複数の工場の従業員から、「工場長の指示で日常的に過剰な自動車の修理を行ったうえで、保険会社に対して過剰な修理費を請求している」という趣旨の証言があり、それを損保各社も把握していました。しかし、最終的にビッグモーター側から提出された調査報告書では、水増し請求の原因は事務連携上のミスや従業員の技術不足であるとされ、不正に関する工場長による指示も確認できなかったという一転した報告がなされました。また、調査に際して行われたヒアリングの内容を記録したシートでは、前述の情報とは一変して「不正の指示はなかった」という内容になっており、証言したと伝えられた従業員とヒアリングを担当した出向社員の署名もありました。この調査の信憑性に違和感を覚えた東京海上日動と三井住友海上保険の2社は追加調査の必要性を主張しましたが、損保ジャパンはこれを「従業員本人が署名している以上、ヒアリングシートには信憑性がある」として、6月に停止していたビッグモーターへの入庫誘導を7月に再開しています。他の損保会社らは今回の不祥事を受けて金融庁による報告書徴収命令を受けましたが、損保ジャパンは唯一、これに加えてこの取引再開についての説明を求められています。
問題③ 度重なる内部通報の黙殺
この問題をここまで大きくさせた決め手は、内部通報を黙殺し続けてきた社内体制であるといえるでしょう。
2章で述べたように、2021年秋には損害保険の業界団体に不正請求の旨の内部告発がありました。さらに2022年1月には、酒々井工場に勤めていた兼重元社長の甥が、他の従業員からの請願を受け、LINEを通じて写真を添付しながら兼重元社長に不正を通報しました。それに関して元社長は調査の指示をした一方で、これまでにも甥による工場長に対する不満や苦情の申し立てが度々あったことから、甥と工場長の間に確執があるものという偏見を持っていました。よって、調査の要請を受けた部長級の人物は酒々井店に赴いても実態的な調査はほとんど行わず、元社長の甥と工場長と人間関係の改善を目的とした話し合いをするに留まりました。また、元社長も、調査の結果報告を聞く前から「工場長と協力して、問題があれば解決してください」というメッセージを甥に送信するなど、通報内容を真摯に調査する姿勢を見せず、もみ消したと思われても仕方のない状況にあります。
これを受け、消費者庁は8月3日にビッグモーターに対して公益通報者保護法に基づく報告を求めました。この法は2022年に改正され、常時雇用する労働者が301人以上の事業者に対して公益通報に対応する外部窓口の設置や規定の策定などを義務付けています。また、必要な場合は事業者に報告を求めることができ、義務に違反していれば指導や勧告の対象となり、従わない場合は事業者名が公表される場合があります。また、報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合は20万円以下の科料が課されます。この法に基づく事業者への報告要請がされたのは初めてのことです。
ここでニュースなどを見ると、「ビッグモーター内部告発」などの記事があがっていますが、これは正しくは「内部通報」です。内部「通報」は企業の問題を企業内の窓口などに報告することを指し、内部「告発」は行政機関やマスコミ等の第三者に対して不正や違法行為を報告することを指します。よって、2021年秋の損害保険の業界団体への情報提供は内部「告発」であり、2022年に兼重元社長の甥が送ったLINEは内部「通報」となります。内部「告発」では、不正があったことが社外に明らかになるため、行政処分の対象となったり、企業の信頼が失墜するなど、社会的な影響がより大きくなります。従業員が内部告発に至らないようにするため、事前に従業員が安心・信頼して利用できる内部通報制度の整備を徹底し、早期に問題に対処する必要があるでしょう。
まとめ
多くの消費者に不安を与え、数々の企業や省庁に影響を及ぼした今回のビッグモーターの不祥事ですが、内部通報を真摯に受け止めて適切な対応をしていれば、ここまで消費者側の被害も企業側の損失も拡大することはなかったはずです。
企業の社会的責任がより重視されるようになった今、企業内に問題が生じた場合はそれを正し、消費者からの信頼を勝ち得るためにも、従業員が安心して利用できる内部通報制度を整備することが重要になるでしょう。
ダイヤル・サービスの取り組み
当社はこれまで約20年間、国内のパイオニアとして様々な企業の内部通報窓口の外部委託先となってきました。昨今は法改正等の後押しもあり、内部通報窓口や相談窓口の外部化(第三者化)によりコーポレートガバナンスの強化を図る企業は年々増加の傾向にあります。一方で、法改正やガイドラインの変更により、仕方なしに内部通報窓口の外部化をすることが目的となってしまうことや、企業としての体裁を整えるだけとなっている企業が世の中にあることもまた事実です。今回の事例は、「仏作って魂入れず」の典型的な例にも見えます。企業の安定的且つ継続的な発展には、コンプライアンス意識、コーポレートガバナンスの向上や強化は欠かせません。内部通報窓口の外部化も、コーポレートガバナンスの強化のための施策の一部でしかなく、もっと大切なことは経営陣の意識と全体の設計です。
当社では、役員や部長向けのコンプライアンス研修も豊富な実績とメニューを用意しており、特に役員クラス向けには「著名な弁護士の先生」×「当社のこれまでのナレッジ」をミックスした研修で、危機感を実感できるような研修を行っています。
・Plan:コンプライアンス強化の計画の立案
・Do:各施策の実施(各階層へ適した研修や施策)
・Check:内部通報窓口の整備や、意識調査アンケート、通報ヒアリングサービス
・Action:改善のサポート
上記のPDCAサイクルを一気通貫でサポートをしている実績のあるダイヤル・サービスに、何かある前に是非、ご相談ください。
参考サイト
ビッグモーター, “調査報告書”, ビッグモーターHP, 2023/6/26
NHK(クローズアップ現代), “ビッグモーター不正の深層 中古車販売大手でなにが”, NHK HP
産経新聞, “中古車大手ビッグモーター、営業成績で現金やり取り 店長たちの「慣行」、会社側「違法性ない」“, 産経ニュースHP
DIAMOND online, “ビッグモーター問題で揺れる損保、独自入手データで「もたれ合いの構図」浮き彫りに“
一般社団法人日本損害保険協会, “共通/Ⅱ. 損害保険料の仕組みについて”
日本経済新聞, “ビッグモーターに消費者庁が報告要請 内部通報巡り“
米山高生・諏澤 吉彦(2011).「統一料率と保険会社のインセンティブ」『損害保険研究』73巻, 1号, pp121-145.
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