Vol.08 人事・採用

正社員と契約社員の違いとは? 5年ルールや同一労働同一賃金から、無期契約社員の扱いについても解説!

2023年8月15日

今回は、正社員と契約社員の定義や違い、5年ルール、無期契約社員の扱いなどについて解説していきます。ぜひ、採用時や採用後の対応などにお役立てください。

正社員と契約社員の定義

正社員は雇用期間の定めがありません。企業は正社員を雇用する際には、無期雇用契約を結び、継続的に雇用し続けることになります。一方契約社員は雇用期間が決まっています。雇用期間は最長3年で、企業と契約社員が合意すれば契約更新となります。なお、契約社員は非正規雇用者の分類に属しています。非正規雇用者には、契約社員のほか、パート、アルバイト、派遣社員、嘱託社員などが含まれます。

正社員は雇用が安定している分、拘束される部分も多く、子育て中や介護中の場合は仕事との両立が難しいとされてきました。核家族化や少子高齢化が進む中、こういった正社員の雇用環境が見直されるようになり、「多様な正社員」という考え方が広まってきています。一般的な正社員はフルタイムで働くことが基本で業務内容についても規制はありませんが、例えば転勤のない「勤務地域を限定した正社員」、残業免除、時短で働くことのできる「勤務時間を限定した正社員」などがあります。プライベートと仕事との両立が難しいという理由で、優秀な人材を逃してきた過去がある企業も多いと思いますが、これからはなお一層柔軟な考え方が求められるでしょう。ただし、こういった柔軟な形態を機能させるには、人事・労務の担当者だけでなく、従業員の理解が必要です。時短勤務の正社員がいる部署では、その社員が不在にしている時間は、他の社員の負担が増える可能性があります。最初はその状況を理解しようとしていたとしても、負担が蓄積されていくと余裕がなくなり、時短勤務の正社員に対して不満を抱くようになったというのはよくある事例です。こういったケースを回避するためにも、企業として時短勤務を導入した経緯や思い、誰もが家庭の事情などによって時短勤務になるかもしれないことを伝えて理解を進めていきます。それと並行して、時短勤務の正社員には就業時間中に完結できる業務を与えるなど、他の従業員への負担が軽減される方法も考えておく必要があるでしょう。人間は特に余裕がなくなったとき、他と比べて不公平さを感じやすくなってしまいます。それぞれが100%満足できる提案は難しいかもしれませんが、常に個々の従業員に目を向けて、何かあれば親身に対応するようにしましょう。

契約社員は雇用期間が決まっていますが、その働きぶりから正社員に登用となるケースも考えられます。企業側が正社員への登用を考えた際に快く応じてもらえるよう、非正規雇用期間中も正社員と区別することなく、働きやすい環境を整えることが重要です。雇用形態は違っても、企業の経営資源「ヒト・モノ・カネ」のひとつである人の確保は重要なポイント。人事・労務担当者だけでなく、管理職や一般層にもそれぞれの立場で理解してもらえるような研修を実施し、周知徹底するようにしましょう。
また、契約社員の中には自分の立場が弱いと感じ、萎縮してしまう人もいるようです。採用したからには十分に能力を発揮し、最高のパフォーマンスをしてもらいたいもの。契約社員を特別扱いするわけではありませんが、溶け込みやすい雰囲気づくりなどにも配慮すると、好循環が生まれるでしょう。

ここでは、雇用形態の割合の推移や現状を見ていきます。
少子高齢化が進み、労働力人口(15 歳以上人口のうち,就業者と完全失業者を合わせた人口)が減少している中、非正規雇用者の割合は増加傾向にあります。厚生労働省がまとめた「非正規雇用の現状と課題」によると、1984年には15.3%(604万人)だったものが、2022年には36.9%(2,101万人)という結果に。年代別にみると、最も多いのが55~64歳で20.9%(439万人)、次いで45~54歳が20.8%(437万人)、65歳以上が19.3%(405万人)となっています。また、不本意非正規雇用(正社員として働きたいのにその機会がなく、現状は非正規雇用で働いている人)の2022年の割合は、非正規雇用労働者うち10.3%(210万人)となっています。これは、2013年の19.2%(342万人)から毎年減少傾向にあり、以前に比べて、非正規雇用という雇用形態を受け入れて働いている人が増えているということが見受けられます。非正規雇用者に対する教育訓練の実施状況においては、正社員を100とした場合、「計画的な教育訓練(OJT)」、「入職時のガイダンス(Off-JT)」は約7割が実施していますが、「将来のためのキャリアアップのための教育訓練(Off-JT)」は4割以下となっています。非正規雇用者の場合、雇用期間が有限であることから、長期的な視野での教育訓練を実施していない割合が高くなっているのかと思われます。

5年ルールと無期契約社員。5年ルールとは?

2012年に労働契約法が改正され、有期契約期間が同一会社内で通算5年を超える場合は、本人の希望により無期労働契約に転換できるというルールができました。これは通称「5年ルール」や「無期転換ルール」と呼ばれています。
このルールに基づき、通算5年を経過した契約社員には「無期転換申込権」という権利が発生。契約社員がこの権利を行使すれば、無期労働契約が成立します。なお、企業側はこの権利の行使を拒否することはできません。

●5年ルールにあたるケースの例
・契約期間が1年で5回更新した場合。このケースでは、5回目の更新で通算5年を超えることが決定するため、5回目の更新後の1年間に「無期転換申込権」が行使できます。
・契約期間が2年で3回更新した場合。このケースでは、3回目の更新で通算5年を超えることが決定するため、3回目の更新後の2年間に「無期転換申込権」が行使できます。
・契約期間が3年で1回更新した場合。このケースでは、1回目の更新で通算5年を超えることが決定するため、1回目の更新後の3年間に「無期転換申込権」が行使できます。
これらの例からも分かるように、5年の経過を待つのではなく、通算5年を超えることが決まれば(=契約締結後)、権利を行使できるということになります。

このルールができるまでは、企業が有期契約の更新を拒否する「雇止め」が散見されていて、有期契約社員は、不合理な労働条件の解消を受け入れるしかありませんでした。よって、有期契約社員は更新が近づくと不安を抱えるようになり、心穏やかではない状態で業務を遂行するということも珍しくありませんでした。
企業にとって人件費の負担は大きく、業績が悪化した場合の人員整理などは、正社員よりも契約社員などの有期契約社員に矛先が向けられがちです。しかし現在は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」は、雇止めは認められません。人事・労務の担当者はこの点をしっかり認識して対応するようにしましょう。また、数名で運営し、人事・労務の部署が独立してないような小規模の会社では、経営者レベルでも5年ルールの概念自体を知らないというケースもあるようです。このルールは、会社の大小に関係するものではありませんので、会社都合による雇止めを発生させないよう、十分に留意してください。さらに、契約社員の中でもこの5年ルールを知らない人が多数いるようです。知らなかったために、「契約期間が満了したが、契約更新はないと言われて、そのまま受け入れしまった」というお話を聞いたことがあります。このような、契約社員にとって不利なことが起こらないよう、契約締結時には5年ルールについてもしっかり説明し、時期がきて、無期労働契約を希望する場合は、「無期転換申込権」を行使するように伝えましょう。

正社員と契約社員の違い

正社員と契約社員の大きな違いは、雇用契約が無期か有期かという点です。
給与や休日、社会保険、福利厚生などの扱いについては正社員と契約社員で大差はありません。社会保険については、正社員か契約社員かというより、1週間の労働時間などが加入条件となります。それを満たせば、雇用形態に関係なく加入させなければなりません。条件を満たしているのに、契約社員だからといって加入させなければ違法となるので注意しましょう。有給休暇も同様で、所定労働日の一定条件を満たしている契約社員にも、正社員同様に付与しなくてはなりません。こういった背景から、企業としては「正社員だから」「契約社員」だからという理由で、給与や休日、社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険)、福利厚生などの面で差別をしてはいけないことになっています。ちなみに、解雇予告についても双方の差はありません。労働基準法では、遅くとも企業は解雇する日の30日前に予告しなければならないと義務付けられています。ただし、契約社員は、契約期間中は基本的には雇用が守られていますが、勤務態度などが著しく悪い、契約内容から逸脱している行為を指摘しても改善の余地が見られないなど、業務に支障をきたす場合には予告のうえ解雇されることもあります。

成果をあげた社員は、昇進や昇給を期待することになりますが、契約社員は契約時の条件が契約期間満了日まで継続されます。よって、原則として途中で昇進・昇給させるということはありません。転勤についても、契約時にその取り決めをせず、双方が合意していたのであれば、契約期間中に転勤を命じることはできません。退職金やボーナスについても、契約時に取り決めるかどうかで正社員との違いが生じてきます。

端的にまとめると、「契約社員は、当初結んだ契約内容に基づいて雇用する」ということになり、契約途中に能力が認められたり想定以上の成果をあげたりしても、契約内容を途中で変更することはないと考えていいでしょう。
契約社員については、期間期間中に評価を形として提示するのではなく、契約更新や正社員への登用などで評価するという方法が考えられます。

それぞれの違いが分かったところで、企業としては、どちらの雇用形態で採用するかが悩ましいところではないでしょうか。そういった時は、下記のように目的を明確にすると、選択しやすくなります。

●働きぶりを見てから、正社員として雇うかどうか決めたい
履歴書や面接だけでは、なかなか本質を見抜くのが難しいもの。このケースの最終目標は正社員を採用することですが、「働きぶりをみてから」という条件があるため、まずは期限付きの契約社員として雇用し、問題がなければ正社員に登用するという方法がおすすめです。ただし、当初から正社員での採用を希望している人に「まずは契約社員から」と提示した場合、その時点で辞退されてしまう可能性もあります。展望についてはしっかりと説明することが必要でしょう。
契約社員を経て、正社員に登用したいとなったら、まずは本人に意思確認をします。本人にその意思があれば、正社員登用試験を受けてもらうことになりますが、試験内容については特に決まりはありません。面接のみにするのか、面接と筆記試験を行うのかなどは、人事・労務の担当者が決定します。

●繁忙期のみ人を増やしたい
1年のうち忙しい数カ月だけ人を増やしたいというのであれば、正社員でなく、契約社員として採用するのがいいでしょう。なお、この場合は短期のパートやアルバイトという方法もあります。

●長期で働いてくれる人を採用したい
この場合は、最初から正社員として募集するのが適しています。その際は面接だけでなく、筆記試験、適性検査を実施し、その人の本質を把握するようにします。
面接では、採用して欲しいという気持ちから、どうしても美辞麗句を並べがちです。その言葉を信じて採用したら、実際は大きく乖離していたという報告もあり、雇用し続けるのが企業として負担となってしまうケースがあります。残念な結果にならないためにも、採用段階で可能な限り本質を見極める方法を取り入れることが重要です。

契約社員における同一労働同一賃金の考え方 
同一労働同一賃金とは?

同一労働同一賃金は、「雇用形態にかかわらず、同じ仕事をする労働者には同じ賃金を支払うべき」という考え方に基づいています。この背景には、雇用形態によって不合理な賃金格差が生じているという実態がありました。このような不合理な格差について、短時間労働者は「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)」で禁止、有期雇用労働者については「労働契約法第20条」で禁止していましたが、2021年4月の改正で、「パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)」に統合されました。
さらに「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」がまとめられ、パートタイム労働者や有期雇用労働者(契約社員)、派遣労働者が同一労働同一賃金の対象であると明記されています。

「パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)」は、働き方改革関連法案の一環として改正された法律です。待遇に関することが記載されており、主に不合理な待遇差をなくすために制定されました。不合理な待遇差をなくすための規定の整備が大きなポイントとして注目されていますが、ほかにも労働者に対する待遇に関する説明義務の強化というポイントがあります。同一労働同一賃金というと、賃金だけを見て同じ業務をしている社員との格差を感じてしまいがちですが、責任の重さや業務範囲の広さの差などを考えて、格差が生じている場合があります。企業側は、パートタイムや有期雇用社員に格差について問われた際には、その合理的な理由を説明できるようにしておかなくてはなりません。つまり、合理的な理由のない格差を生じさせてはいけないということになります。
長く間同じ会社でパートや有期雇用社員として働いていると、格差に不満を持ちつつ「昔から格差はあったし、仕事を与えてもらえているだけでありがたい」と感じている従業員もいるようです。すでに対応済みの人事・労務の担当者も多いこととは思いますが、今一度同一労働同一賃金ということに目を向けて、改善すべき点は対応し、整備するようにしましょう。こうすることで、従業員のモチベーションの向上や離職率の低下が期待できます。なお、これまでに労使で裁判となった事例があるので、抜粋版として紹介します。

●無期・有期契約労働者間の格差の裁判例※厚生労働省 裁判例 9.無期・有期契約労働者間の格差より抜粋
日本郵便(佐賀)事件・最一小判令和2・10・15労判1229号5頁
【事案の概要】
(1)  X(1審原告・控訴人兼附帯被控訴人・被上告人)は、平成22年6月、郵便事業株式会社との間で期間6か月以内の有期労働契約を締結し、同社および同社の合併により成立したY社(1審被告・被控訴人兼附帯控訴人、上告人)との間で契約更新を繰り返して、Y社において時給制契約社員として郵便外務事務に従事していたが、平成25年12月、Y社を退職した。
(2)  Xは、無期労働契約で雇用されている正社員との間の、①外務業務手当、②年末年始勤務手当、③早出勤務等手当、④祝日給、⑤夏期冬期休暇、⑥夏期年末手当、⑨夜間特別勤務手当に加えて、⑩作業能率評価手当〔郵便外務業務精通手当等〕、⑫基本賃金・通勤費等の労働条件の相違は労契法20条に違反するとして、不法行為に基づく損害賠償等を求めて訴えを提起した。

1審判決では、いずれも不合理とは認められないとして、Xの当該請求を棄却した。これに対し、Xが控訴、Y社が附帯控訴した。原判決では、請求を一部認容。最高裁では、夏期冬期休暇に関する労働条件の相違が不合理と認められるか、それにより損害が生じたといえるかが、争点とされることとなった。

【判旨】Y社の上告棄却。
(1)  有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違の不合理性の判断に当たっては、両者の賃金の総額の比較のみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきであるところ、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきである。
(2)  Y社において、郵便業務を担当する正社員に夏期冬期休暇が与えられているのは、年次有給休暇や病気休暇等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的によるものであると解され、夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日数は上記正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない。そして、郵便の業務を担当する時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされるなど、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているのであって、夏期冬期休暇を与える趣旨は、時給制契約社員にも妥当するというべきである。 そうすると、正社員と時給制契約社員との間に職務内容、配置の変更範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に夏期冬期休暇に係る相違があることは、不合理であると評価することができる。
(3)  夏期冬期休暇の損害の認定については、財産的損害を受けたものと認められる。

理解しあえる職場環境の構築を

正社員と契約社員の大きな違いは、雇用契約が無期か有期かという点。給与や休日、社会保険、福利厚生などに大差はありませんが、格差があったり、実際は格差がないのにも関わらず、理解不足で不満を感じていたりするケースがあります。法律の則るということはもちろんのこと、対話やコミュニケーションなども含めて、従業員と理解しあえる環境を構築していきましょう。

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