問題解決につながらない感情とは
人は同じ出来事を体験しても、怒りっぽい人やネガティブな人、楽天的な人がいるように、どんな感情を味わうかは人によって違います。例えば、子どもがけんかをして泣いて帰ってきました。親に慰めてもらおうとして泣きついたら、「泣くんじゃないよ!」と怒られてしまいます。すると子どもは、“悲しいという感情は認められなかった”という体験をします。別の日に友達とけんかをしてやり返したことを親にほめられました。すると子どもは、“怒りの感情は認められた”という体験をします。これが繰り返されると子どもは“困難な状況では怒りの感情を示すことで認められる”と学習します。
このように、身近な養育者に認められた感情は、味わいやすいおなじみの感情として、その人の中に学習されていきます。
子どものころは学習した感情を示すことで親から認められたかもしれません。しかし、大人になってその感情を示したとしても、必ずしも問題解決につながるとは限りません。例えば、仕事がうまくいかないことを怒っているだけでは、他者に負担をかけるばかりで解決しないのです。
このような問題解決につながらない学習した感情は、交流分析という心理療法では“ラケット感情(偽の感情)”と呼ばれています。ラケットとは詐欺や不正を意味しますが、このラケット感情は、ストレスフルな状況で体験されやすいと言われています。あまりにも困難な状況に遭遇すると、子どものころに親に認められた感情に戻ってしまうということがあり得るのです。
その感情は様々です、怒り、後悔、焦り、優越感、自己嫌悪、不安、絶望感、敗北感…。こうしたネガティブな感情がラケット感情です。逆に、その時その時の状況に即した、問題解決につながるような感情は、“本物の感情”と呼ばれています。本物の感情は「喜び、(必要な)怒り、悲しみ、怯え」の4つです。
ラケット感情はネガティブな感情なので、感じると心が苦しくなります。ラケット感情をため込むと苦しさに耐えている自分に報酬を与えたくなります。飲酒量が増えたり、やけ食いをしたり、高級なものを自分にプレゼントしたり…。小さな報酬なら気晴らしになるかもしれませんが、あまりにもため込み過ぎてしまうと、依存症になったりうつ状態になったりと、心や身体の不調につながることもあります。
困難な状況などにおいて、なにかしらの感情を抱いたとき、その感情を持ち続けることが問題解決につながるのか自問自答してみてください。もし、問題解決に役立たなかったら、それはラケット感情かもしれません。ラケット感情だと気づいても、その感情を否定する必要はありません。子どものころの自分に戻りたくなるほどのストレスフルな状態なんだなと、まずは自分をじっくり愛でてあげてください。そして、ラケット感情を手放すことができたら、気持ちもスッキリして、問題解決に向けて動けるようになるかもしれません。