Vol.114 食と健康

油のこと、いろいろ

 「スーパーにたくさん並んでいる油。どんな違いがありますか」「天ぷらにはごま油を使った方がよいですか」などの相談が管理栄養士の窓口には寄せられます。
 揚げ物、炒め物、ドレッシングやマヨネーズなど、料理に油は欠かせませんが、どれを選んだらよいか迷うことがありますね。知っているようで知らない油についてお伝えします。

油の特徴

 植物油の原料には、菜種、大豆、とうもろこし、米ぬか、ごま、紅花、オリーブ、クルミ、落花生など多くの素材が使われています。以前は天ぷら油、サラダ油のように、2種類以上の油を混ぜ合わせた食用調合油が多かったのですが、最近では原料を1種類に絞り、それぞれの特徴をうたった油が主流になっています。一般的な油の特徴を紹介します。

まだまだある!注目の油

 健康によい油としてさまざまな商品が出回っていますが、注目されているのが「あまに油」と「えごま油」です。体内で作ることができない、オメガ3系脂肪酸「α-リノレン酸」を多く含むのが特徴です。血液中のコレステロールを減らす働きがあり、心血管疾患や脳卒中などの予防に役立つといわれています。
 「あまに油」は亜麻という植物の種子、「えごま油」はシソ科の荏胡麻の種子が原料です。どちらも酸化しやすく熱に弱いので、加熱調理には向いていません。くせがなく料理の味を邪魔しないので、生のままドレッシングに使ったり、そのままスープやコーヒーに加えたりします。
 ほかにも、体内でエネルギーになりやすい「MCTオイル」は、昔から医療現場で使われていますが、近年はスーパーなどでも身近に見かけるようになりました。また、健康の維持増進に役立つことを認められた特定保健用食品(トクホ)の油もあります。

天ぷらにごま油を使うのはなぜ?

 天ぷらは江戸の料理と呼ばれています。当時、上方(関西地方)の天ぷらは魚のすり身の揚げ物なのに対し、江戸の天ぷらは魚介の衣揚げで、ごま油できつね色に揚げるのが特徴でした。それは東京湾で新鮮な魚がとれたことと、ごまの栽培が盛んになり搾油技術が向上したことが関係しています。ごま油は加熱に強く、からっと揚がり、油切れもよく、時間が経っても風味は変わりにくいとされています。ごま油の強い香りは、魚のくせを消すためにも適していたようです。
 今でも天ぷらにごま油だけを使うお店もありますが、家庭では、なたね油や大豆油に20~30%ほど混ぜるだけでも香りのよい天ぷらに仕上がります。

油祝い

 11月15日といえば「七五三」を思い浮かべる方が多いと思いますが、実はもっと古くから行われていた行事「油祝い」「油しめ」があります。旧暦の11月15日に餅や植物油を用いた料理を神前に供えて、油の収穫を祝っていたのが始まりとされています。その後、寒さに備えて油を使った料理を多く食べるようになりました。福島ではけんちん汁、群馬では天ぷらを、ほかにも金平ごぼう、なすの油炒めなどを食した地域もあるようです。
 特に農村地帯では、各家庭で菜種、ごま、荏胡麻などから搾り機で油を搾っていました。蓄えられた油は、冬の長い夜を明るくともし、寒さをしのぐ大切な役割を果していたことがわかります。

 かつて貴重だった油は、江戸時代から庶民に広がり始め、今や摂りすぎが問題視されるようになりました。そして、最近では健康のために油の種類を選ぶようになっています。えごま油は灯明用として日本の主流の油でしたが、なたね油の普及ですっかり忘れられていました。それが健康によいと再び注目されているのは興味深いですね。遠い昔に思いをはせながら油を使ったり選んだりするのもいいかもしれません。